その答えは明確かつ歴然としています。「需給バランス」この一言に尽きます。 昨年、藤田医科大から中国の武漢協和病院へ渡航した女性が到着後13日目に心臓移植を 受けられています。(短期間に4つの心臓が出処した)
心臓移植の待機時間は日本では平均3年1ヵ月(日本移植ネットワーク)欧米でも3年前 後と言われています。
なぜインド・中国では1ヵ月前後で移植が可能なのか、その理由は当該国内での需要が少 ないからです。脳死判定後に腎臓や肝臓は摘出されても心臓・肺・膵臓の多くは摘出されず 廃棄されます。
では、なぜ需要がなく移植治療に採用されないのか?その原因は経済的理由と保険制度に あります。 物価の安い新興国でも心臓や肺の移植は1千万円前後(入院から退院まで)費用が必要と なります。(医療機器・投薬・処置は先進国と同様です)
年間所得が百万円に満たない国民にとって臓器移植は年収の10倍以上になってしまいます。また保険制度も先進国ほど充実していません。 移植術に関してインドでは公的保険の適用はありません。中国は腎臓と肝臓は公的保険の 適用を受けられるが心・肺・膵臓は全額自己負担となります。
加えて定期検査並び免疫抑制剤も実費となるので年間百万円前後の加療費が終生必要となります。 その他、感染症あるいは拒絶反応が発症すれば別途、数十万~数百万円の入院治療費も必要となります。
対して日本では高額療養費控除や身体障碍者1級(免疫抑制剤の服用患者は1級)認定が 受けられ終生医療費は少額で済みます。また障碍者として様々な助成制度の恩恵を受けられます。 これほど手厚くありがたい公的保険は日本固有の制度と言えます。同様な制度は海外でも少なく、新興国にはございません。
私どもが試算したところ多額の渡航費用を支払ってインド・中国で臓器移植をしても、現地 の人より総支出額(終生)は日本人患者の方が低額で済みます。
このような理由で心臓や肺が新興国では移植治療に活用されずに廃棄されるのです。
新興国でも所得が高い大都市(デリー・ムンバイ・北京・上海)では各種臓器の摘出が比較的実施されています。 地方都市では需要が少なく廃棄されるのであれば、一人でも多くの患者の治療に役立てる方法や機会を模索するべきと考えます。
脳死判定について
後進国では脳死判定を厳格にせず臓器目的で安易な脳死判定をしていると指摘する方もいます。 日本では脳幹だけではなく大脳を含めた脳全体の機能が廃絶した場合を脳死と規定しています 脳幹の廃絶を死の定義としている英国を日本の基準に当てはめるとすべて殺人になってしまいます。 米国は脳死の基準を各州法や医療機関の裁量に委ねています。例えばミネソタ基準を物差 しに脳死判定をすれば日本の医師は殺人罪に相当してしまいます。 詳しくはhttps://www.npo-online.org/s/ethics.html 参照ください。
※欧米では許される行為でもインド・中国で実施した場合は「臓器狩り」と言われるかも知れません。
(配布・転載自由) 令和3年2月22日
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