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現地でのエピソード 第五話~患者の葛藤~ 2019年03月11日

今日まで数多くの移植希望者様と接して参りました。その経験から、ご家族の方々へ強く申し上げたい事がございます。
もし、自分の肝臓を提供する考えがあるのなら一日も早く、その決意を患者さん本人と主治医に宣言してあげて下さい。もしNOであれば、それもはっきりと即刻伝えて下さい。
 ある統計では、肝不全の家族に対しドナーとなった人は2%という数値があります。
100人中98人は提供しないのだから、もし断ったとしても、その人は98人中の人だったわけですから、何の不自然もありません。むしろ、ドナーとなる人が特別な2%の人なのです。
 この様な実情がありながら、思いの外患者さん本人は家族への強い期待を抱いています。余命ギリギリでご相談される方、ストレッチャーにて現地へ搬送し、移植手術を受けられた方など『どうしてもっと早く渡航の決断をされなかったのですか?』と尋ねると返ってくる返事は2通りです。一つは『手術が怖かったので』二つ目は『土壇場になれば○○がドナーになってくれると思っていた』
今、私どもでは現地へのストレッチャー搬送は原則しておりません。その理由はギリギリでの渡航は成功率が大きく低下します。また、到着して直ぐにドナーが出現すれば良いのですが、場合によっては2ヶ月以上待機する場合もございます。
そのような場合、何よりも患者様ご本人が『もっと早く決断しておけば良かった』と毎日のように話される姿は見ている側も辛いのです。
やはりリスクの少ない手術を希望されるなら、余裕を持って日本を出発し、出処するドナーの中から、マッチングの良好な肝臓を移植されるのが最良であることは申すまでもありません。
 以前、救急車で出発空港まで移動し、到着した際にも現地の救急車を利用するくらい、状態の悪い患者さんでしたが、運よく入国後数週間でドナーが現れ、手術を受けることができたお陰で、2ヶ月前は死の淵をさ迷っていた患者さんが、なんと2ヶ月後には小走りできるまで回復されたことは、大変喜ばしい出来事でした。その様な事例を示すことにより、ご相談される方は『まだ手術しないで大丈夫だ』中には『どうせ死ぬのであれば最後に勝負したい』など身勝手な判断をされる人がおりました。
話を戻しますが、土壇場になれば、『身内(当てにしている人)から貰えるだろう。若しくは貰えるはずだ』と考えている人が意外に多くいます。その当てにしているご親族方に聞いてみますと、現実は全くその気がない人が半数以上でした。
では何故そうなったかと言えば本人(患者さん)の手前、元気付ける気持ちで元気付ける気持ちや、その場では言いにくい環境もあり「提供しても・・・」のような曖昧な返事をしてしまったがために、命が掛かっている患者本人からすれば「あっこれで大丈夫、安心した」とポジテブに受け取ってしまい結果、渡航移植への決断が遅くなってしまうのです。
双方の話を後から聞くと、温度差と言うかギャップが大きく、その場で確認されれば良かったが、内容が内容だけに、念を押すのは出来ない心理状態だったと思います。
いよいよ症状が悪化し、歩くのも骨が折れる頃になり『そろそろ頼む』と向けたら、曖昧な返事になり、その日を境に病院へ来なくなったとか、例えば弟にドナーを頼んでいたら弟のお嫁さんが見舞いに来て『うちには小さい子が二人いまして…』とやんわり断られたとか、その様なケースをよく耳にします。悪気があった訳じゃないが、結果的に最終的に崖の下へ突き落す事になってしまいます。身内に期待されるその気持ちは良く分かりますが、その可能性は2%しかないという現実を冷静に考えるべきで、もし身内の口からドナーになっても良いとのニュアンスがあったならば、はっきりと確認されるべきだと思います。
海外でドナー待機中に、患者さんからよく『妻とは別れる事に決めた』とか『兄とは絶縁した。こっちが生きるか死ぬかなのに「今1ヵ月会社を休めない」とか平気で言うんだよ』と恨み辛みをこぼされますが、移植が済み、手足や顔が綺麗なピンク色の肌になって、日本へ帰国する時には『98%はドナーにならないのだから当然だったな』と明るい気持ちに変わられる人が殆どです。離婚すると言われた方でも奥様が迎えに来られ、仲良く帰国される人も何人もいます。
やはりご自分の人生どうするべきか、一つ一つ整理して、感情的にならず冷静に判断なさって下さい。後悔しない為にも、決めるのは患者様ご本人です。
※親族へ臓器提供については賛否両論ございます。が一つ言えることは提供しなかったことに対して、決して責めてはいけないことだと思います。私共は上記のようなやりとりは多く見てきておりますが、親族からの臓器提供で移植が実現できること自体が稀であり、提供の意思があってもクロスマッチ検査などの移植適応検査で不可となってしまう場合も多くあります。提供する側もされる側も後ろめたい気持ちは当然あるかと思います。決して海外移植を推奨するものではなく、私共が願うのはご自身の病状をしっかりと認識した上で、表面上の会話ではなく深く腹を割ってご家族とご相談されることです。



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