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現地でのエピソード 第四話~ご家族の葛藤~ 2019年03月10日

移植の問い合わせは、患者さんご本人から来る場合とご家族からもあります。
割合はご本人が6割で、ご家族が4割ぐらいだと思います。ただ、ご家族からの問い合わせで移植手術へ結び付いたケースは30件に1件ぐらいです。
その理由は、やはり会話してもご本人程の移植への要求度や、真剣味が少ないように感じられます。
よくあるのは、自分の肝臓若しくは腎臓は提供できないので海外はどうか、と軽く聞いてみようとの問い合わせです。
大概、一度か二度の電話が来てそれで終わるケースが多いです。その他、患者さんが亡くなる直前に慌てて電話をするかたも多くいらっしゃいます。
 活動を始めた十数年前は、一人でも多くの患者さんの命を救おうと、依頼があれば日本全国出張面談をしていました。特に肝不全の方は体力が落ち、遠出は骨が折れて苦しいとの声をよく耳にするので、要望があれば、こちらから出向いていました。ある典型的な事例をお話します。
 指定された病院に着き、個室へ入るとベッドを挟んで、電話をされた奥様と20代とおぼしき男女が居られました。
多分、子供さんと思われます。患者さんは56歳でC型肝炎から末期の肝硬変になられており、すでに会話も出来ない状態でした。
これでは海外へご案内するのは無理な病状で、手遅れである状態でした。当時、この様なケースが立て続けにあったので、今回相談頂いた奥様にも自分の足で歩く体力が無ければ海外には行くことはできない旨をはっきり申しあげました。しかし『とにかく来て欲しい。お願いします!』と強く頼まれ、伺ってみたところ、手遅れの状態でした。
そこへ看護師が入って来たので『もうちょっと早く連絡頂けたら良かったんですけど』そう伝えると、看護師は手招きをして私を廊下へ誘うので、個室を出るとナースは『あの家族には3年前から移植をしなければ亡くなると、しっかりと言っています』あーそうでしたか、それは失礼しました。と頭を下げ戻ると、奥様は『先週まですごく元気だったんです。急に喋れなくなって…。』そう言うので、肝不全とはそういうもので、アンモニアの血中濃度がある時点に達すると意識が無くなります。この状態では私どもは何も出来ません。お役に立てず申し訳ありません。と頭を下げると、奥様は『1億円出すので何とかなりませんか』とおっしゃいましたが、残念ながら金額の問題ではなくご主人は明日、明後日亡くなっても不思議ではない状態です。なので海外へ行く事は出来ません。そう説明すると、奥様はベッドの向かいに立っている娘さんに『○○ちゃん、海外の先生(私は医師ではありません)にも来てもらったけど、お父さんどうにもならないって』娘さんは今までのやり取りを聞いていたので承知済みかと思いますが、改めて手遅れだという事を認識されたご様子でした。二人の子供は言葉もなくじっと父親の顔を見たまま立ち続けておりました。奥様は身を返し窓の前に立つと遠くを見つめながらポツリと『これで全てやれることをやった』とその横顔に一抹の清々しさが漂っているのを感じました。多分、ご主人がいよいよ死に直面し、後ろめたい気持ちになられたように思います。
事前に肝移植の総費用は1200万(当時)必要ですと説明していたにも関わらず、子供たちの前で『1億出します』と言われたのは、そのようなお気持ちからではないでしょうか。
いずれにしてもこの面談を境に、ご家族からの要請があっても出張面談は原則応じないことにしております。
 第五話では家族間での臓器移植とその葛藤を患者さんからの声を交えてお話したいと思います。
※実際に去年も似たようなケースがございました。その時はご家族がご相談に来られ、ストレッチャー搬送が必要な程生命の危機が迫っていた状況であり、急ぎ病院側との連携を済ませ渡航日が決まるも、出発2日前に急に容態が急変しお亡くなりになられました。今回のお話は非常に残念な話ではございますが、このようなケースは頻繁に起こっていることを読者の皆様に知って頂きたく掲載いたしました。




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