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現地でのエピソード 第二話 2019年02月15日

5年前の話ですが、前回に続き今回のケースも相談者は医師(57歳男性 中野さん※仮名)の方で長野県在住の内科医でもある院長先生です。糖尿病から腎不全となり、透析3年目からは身体の負担が日増しに大きくなって来たので、海外移植の条件等の問い合わせをされたとのことでした。またこの先生も日当と交通費は支払うので説明に来て欲しいとの要請でした。医療関係者からの渡航移植に関する問い合わせは比較的多く、参考までに申し上げますと肝移植も含めて私どもが案内した患者さんの内、医者や病院職員さらに製薬会社など医療関係者を含めると総数は全体の15%前後になります。その理由の一つとして、いわゆる臓器移植が唯一無二の根本的な治療である事を十分理解されているからです。よって移植する病院の実績が分かると話は早く、すぐ決断される傾向にあります。今回相談をされた中野さんのご自宅はクリニックと併設されており、隣がご自宅となっていました。お会いしてビックリしたのは極度の肥満体形であり、後に聞けば身長168㎝体重95kg(ドライウエイト)とのこと。『う~ん。先生、もしかしたら移植の適正検査で不可になるかもしれませんよ』と伝えると中野さんは『ま、とにかく行って検査を受けてみるよ』との意向でしたので現地の事情を少し説明しておきました。案内する医療センターは肝移植で有名な病院ですが腎移植が3チームあり年間400例前後の移植手術が実施されています。その一つ、主任の外科医(執刀医)は1年前に米国から帰国された女医の先生で、普段から患者の摂生に関する事に厳しい方でした。なので糖尿病で肥満となれば断られる可能性は高いと予想されました。他のチームの男性外科医に当たればまだ融通が利きそうでしたが、直近半年の内5名中4名もの患者様の担当が女医先生でしたので心配しておりました。そこで体重(ドライウエイト)を85kgになったら出発しましょう。と提案したのですが当人は移植すると決めた以上1日も早い方が良いとの事で、私共の話は意に介しませんでした。なので後日、奥様へ改めて注意点を伝える為、電話したところビックリする内情を話されました。私が『もっと体重を絞らないと心不全を起こすかも知れませんよ。透析病院の先生から言われませんか?』と言ったら『あの人に何を言ってもダメなんです。私は栄養士なのでカロリー計算して食事を作っても夜中に家を出て行って好きな物を食べるんです。それを注意すると怒り出すし、もうどうしようもないんです。それと透析病院の先生からは「このままの生活を続けたら3年持ちませんよ!」とはっきり言われているのにも関わらず、全く聞き入れません。本人は死ぬつもりでいるんじゃないですか?』と一気に話されるのです。しかし少しでも減量しないと手術は厳しいかも知れませんと伝えると、本人のやりたい様にさせるしかないとの返事でした。ご夫妻と面談中、時より先生は奥様に対し『うるさい!お前は黙ってろ』と罵倒する姿も気になり、これは奥様に対し『お前が腎臓をくれないから俺は海外に行かなければならない』と八つ当たり的な感情が心の底にあると感じました。しかし私が思うに、臓器を提供する側も自分の体を切って臓器を提供する事についてはやはり怖い。と感じるものだと思います。御家族の方が最初は自分の臓器を提供しようと考えていたが病院側から再三話される臓器提供に関するリスク説明でドナーが死亡するケースがある事や、数か月入院する場合がある。など何度も何度も説明を受けているうちに、手術が怖くなってドナーを取り止めた話を何人からも耳にしています。病院は手術の予後が悪かった場合のトラブルを避ける為、想定されるリスクを全て網羅した書面への署名捺印に対し、提供を考えていた人も『先生、少し考えます。』となる傾向は至極当然のことであると思います。また移植治療に対して積極的な病院とそうでない病院があります。一般的に院内で移植が実施されている場合は積極的で、移植手術をしていないかまたは実績が少ない医療機関では消極的となりリスクやデメリットの説明を繰り返す傾向があります。自分の運命が病院や医師の都合で変えられるような事があってはならないと考えます。
話を戻します。依頼人の中野さんと面談した3週間後に現地入りし、その時のドライウエイトは91kg (-4kg)下げていました。しかし努力の甲斐なく女医先生は『この数値(BMI)では不可です。日本ではどうなんですか?』と逆に聞かれたので『数値の輪切りではなく個別に総合判断されます。』と返答すると『自己コントロールの出来ない人は臓器をもらう資格はありません。それにこの方の生活習慣では移植した腎臓は長持ちせず数年で廃絶するでしょう。』とキッパリと断られてしまいました。また当人へは直接、英語で『体重が75kg以下になったらもう一度お越しください。再度、適性検査をします。』と取り付く島もない有様でした。
当時2名60代(女性)50代(男性)の腎移植希望者も現地入りしていたので他のスタッフにサポートを任せ私は中野さんと一緒に帰国する事にしました。移植不可となった中野さんは帰国する機内でビックリする事を仰るのです。『今後どうするんだ。手術しなければお宅達は一銭も金が入らないじゃないか。』さらには『少し金を包んでもダメか?』とおっしゃるので、私達の事をその様に見ているんだな、と肩から力が抜ける想いになりました。
そして『中野さん、現地を見られてお分かりと思いますが年間何百人もの移植をしている病院が1人の患者だけ特別扱いすることはまずありません。指示通りダイエットしましょう。』と説明しました。しかし後日手術代金を返金すると『本当に金を返すんだな~。』と電話が来ました。その後、女医先生からドライウエイト80kg以下との内諾が得られたので奥様へそれを伝えると『ま~無理でしょうね~。今また95kgに戻っているから。でも本人は移植を絶対に諦めないと言っています。』それなら何とか80kgまで頑張ってくださいと伝え電話を切りました。その後半年が過ぎた頃でしょうか。奥様から着信入ったので私の心はポッと明るくなり
『はい。ご無沙汰しております。』と電話に出ると奥様は『先週主人は亡くなりました。色々とお世話になりました。』との事で、死因は自宅で蕎麦を食べている最中気管に蕎麦を詰まらせた事による窒息死で、あいにく奥様の留守中に起きてしまい家族が気付いた時には手遅れだったそうです。何とも残念な結果でした。その後重い糖尿病でさらに肥満体形の方にはこの事例を伝えています。また読者で該当する方は参考になさってください。

※著しい肥満や心臓機能の問題や癌の大きさ、転移…と理由は様々ではありますが、移植が不適応になるケースは年間に3~4件ございます。今回は日ごろの摂生や自己管理に該当する問題でありましたが、癌や心機能の問題と違い本人の努力で解消できる課題でした。一昔であれば、ある程度大目に見てくれていた医師・病院もございましたが、現在では貴重な臓器を提供するに値する患者様であるかどうかという部分もシビアに観察されます。また移植手術は術後のフォローアップが非常に重要になってきます。患者様自身も移植に対する知識を身に着け、しっかりと自己管理してゆかないとすぐに廃絶に追い込まれてしまう危険性もはらんでおります。




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