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現地でのエピソード 第一話 2019年02月14日

今から13年前の話ですが九州の福岡に在住されている71歳の男性(田中さん※仮名)から一本の電話が入りました。透析をして半年だがこんなに大変だと思わなかったとの話をされ、海外で移植は本当に出来るのかとの問い合わせでした。実績や現地事情等をご説明すると妙に医学に詳しいのでご職業を尋ねると福岡市内で総合病院の院長をされている方でした。話はトントン拍子に進み直ぐに出発する手筈となったのですが大きな問題が生じました。年齢を確認したところ、71歳の患者様であるとの返事に『誠に残念ですが60歳までで体調の良い方でも65歳迄となっています。』と、当時は今より厳しい年齢制限がありました。
すると田中さんは大変ご立腹され『私に一度会ってもらえればわかる。腎臓以外どこも悪い所はない。自身のメディカルデータも送る。さらには交通費・日当を支払うから来てほしい』と仰っていました。余りにも熱心に言われるので無下に断れず他の用事を兼ねて行く事にしました。博多駅からタクシーに乗り到着したご自宅は立派な門構えの和風建築の家でした。そして会って驚いたのはご本人が話す様に若々しく50代後半と言っても通りそうな様相の方でした。当人曰く『東京女子医大は80代の患者でもどんどん移植しているぞ』と笑顔で話すのです。しかし当時私どもでは65歳迄が最高齢で、移植の確約出来なかったのでまずは適性検査を受けて承認が得られたらドナー待機~移植手術という段取りとなりました。そう話すと田中さんは手術が決まったかのように喜ぶので『検査次第ですよ』と伝えたら田中さんは『自分の身体は自分が一番知っている。問題ないよ。』さらに『もし移植したら腎臓は10年くらい持つかな』と聞くので『平均で15年程との説明を受けてます。』と答えると『そうか!』と満面の笑みの横で奥様が肩で大きく息を吸い込み小さく首を横に振っていたのが今でも印象に残っています。当時は上海にある有名な移植センターへ案内しており、田中さんも医者仲間から実績や評判を聞かれていたので安心して現地向かいました。相当期待されていたので通訳にはもし移植不可の場合その場で通訳せずにホテルに帰ってから私からゆっくり説明すると伝えておきました。医師の判断は『検査結果に問題はないが高齢なので様々なリスクがあります。この方が現地人であれば進めますが日本人なので死亡事故でも起きたら責任問題となるので不可とします。』との説明でした。
ホテルに戻り田中さんの部屋を訪ね言葉を慎重に選び説明したところ田中さんの顔からサーっと血の気が引くようにみるみる険しい表情へと変わり、そしてポツリと『なにか方法はないか。金額を上乗せするから再度交渉してもらえないか』と仰いました。当時総額600万円(2019年現在この金額ではございません)で腎臓移植の案内をしていたので大変大きな金額ですが医療現場の医師に謝礼金を渡しても結果は変わりません。もし交渉するとしたら移植センターの院長になるのですが、以前も似たようなケースで交渉しましたが院長は『現場の判断なので仕方ありません。』と話されました。ここで少し解説しますと有名な移植センターの患者は現地人であれば政治関係の幹部及び軍の交換若しくは大企業の社長など有力者に限られます。外国人の場合は大使館を通じて来訪される招待患者が優先されます。宗教上の理由から自国でドナーの処出が無いイスラム圏 (スンニ派)の患者は各国の大使館が窓口となって来訪されます。(日本の場合は大使館の協力が得られません。)従って医師の本音は国内外から患者は集まって来るのでわざわざリスクの高い日本人患者の移植はする必要がないとの考えです。この考えは今でも変わらないが、現地案内をしている移植センターとは提携も10年以上は経過し信頼関係が深まった事に加え現在の院長・副院長は日本の大学で腎臓・肝臓移植を学び高名な教授からも師事を受けており両名共に日本語が流暢な事から、以前に増して意思の疎通が向上しています。そのような事もあり現在70歳を超える方でも体調が良好であれば移植手術が受けられます。話しを戻します。移植が出来ると思い込んでいた田中さんの心中を察すると私共もいたたまれないが、どうする事も出来ません。翌日帰国となった前の晩、田中さんはホテルから行方不明になったのです。部屋には荷物が一部残されておりチェックアウトはしていないし帰国のチケットは私共が預かっていました。手分けして探しましたが見つからず翌朝、日本の奥様へ連絡を取ったところ何も連絡はないとの事で、もしや自殺でもと話すと『自殺するようなタイプではありません。そのうち出てくるでしょう。ご迷惑をお掛けしてすみません。』との回答で、帰宅したら一報頂けるとの事でしたが本人が帰ったのは5日後でその間透析はどうしていたのか、奥様には一切何もしゃべらなかったそうです。最終的には移植手術は叶わず透析を継続されております。


この一連の騒動の中で、田中さんの心中を考えればどんなに残念であったことだろうと思います。現在も世界的に臓器不足が叫ばれており、海外の移植事情も以前よりかは厳しくはなっておりますが、それでも外国人を受け入れてくれる病院はございます。記事中にもありますが、年齢制限に関しては移植技術の発展などもあり年齢制限が緩和傾向にあります。NPOがご案内している病院では2017年に73歳(男性 腎移植)の患者様の実績もあり現在(2019年現在)も健康に暮らせております。今後もこのような渡航患者様の実録や現地でのはなしを発信してゆきます。もっと現地での移植事情を知りたい方は直接お問合せいただければ幸いです。 




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