昨日、肝移植後の生存率に関して報道がございました。 生存率を尺度に病院や医師の優劣が判断できないことを論じたいと思います。
肝臓移植は術前の評価(評点)において生存率がある程度予見できる手術であることを先ずはご承知ください。 ドナーが高齢(60歳以上)及び血液型が不適合ならば、その時点で1年後の生存率は一般的に五割以下と言われています。 さらにドナーが小柄(グラフト小)レシピエントの基礎体力が低下しているなど、程度にもよりますがそれらの要素が加われば生存率はさらに低下し2割以下となってしまいます。
それでも患者側にすれば、移植しなければ確実に死を迎えるので「先生たとえ成功率が10%でもお願いします」と一縷の望みを託すのです。 現状、患者や家族が望んでも病院側は成績(風評)を気に掛けて承諾しないのが大多数です。 一流と言われる大学病院や大手医療機関ほどその傾向が益々強くなっています。
患者の切なる願いを汲み取り、ハイリスクの移植に挑む医師や医療機関が生存率を指標に評価するのは適切ではありません。生存率は条件の良い患者だけを選択して手術すれば向上するからです。
例えば、肝移植を希望する患者が100人いたとします。その中から評点(病状・ドナーの優劣・マッチング等)良好な20名に移植をして残り80名を拒んだ場合、移植を受けられず亡くなられた80名はカウントされることはありません。 もし全員を移植した場合、50名の命を助けることが可能であったかも知れません。 手術を受けられた患者の成績だけで優劣を語るのは「木を見て森を見ず」であって、総合評価されるべきと考えます。
■海外の動向・・ 私どもが案内する移植センターにおいても同様な趨勢です。患者の選択は年々厳しくなっており、特に昨年の5月からは病状、年齢、基礎体力など総合判断に於いて受け入れ不可となるケースが増えています。
■日本人は、なぜ受け入れ基準が高いのか・・ 医師(現地)は度々「日本人なので今回は辞退します」と話されます。 その理由は、もし患者が不幸にも亡くなられた場合、私どもは日本大使館へ事実関係を通告します。(死亡証明の交付申請) 日本大使館は事件性や医療事故など含めて死亡原因の調査を公安(警察)と合同で行います。 法的には何ら問題はございませんが死亡原因について関係者へ詳細な説明が求められるのです。 事情聴取は長時間に及ぶこともあり、場合によってはエビデンス(証拠)の提出も必要となります。 その様な事から自国民と比較して責任負担が重く、どうしても慎重にならざるを得ないのです。 (まことに遺憾ながら8年間の活動において4名の方が現地で亡くなられています)
■余談・・・ 海外へ行くと医療関係者から「田中先生は元気にされていますか?」と度々聞かれます。 私は面識がなく存じあげませんが、日本人と伝えるだけで田中先生の様子を尋ねられるのです。 それほどまでに生体肝移植に対する偉業、功績は各国の医師に尊崇されています。
田中紘一先生(元京大教授)は国籍、人種の分け隔てなく多くの若手医師を育てられました。 世界中で行われている生体肝移植の術式・免疫抑制・管理方法の基礎を築かれた第一人者です。 田中先生の門下生は世界中の医療現場で活躍されており、間接的に数千人の命を救われたと言っても過言ではないと思います。 私どもが案内する移植センターの副医院長も京大にて田中先生の指導を受けられた一人です。 昨日、移植センターでは心臓移植1名・肝臓移植3名・腎臓移植4名の計8名に対し各種臓器移植手術が同時に行われました。内1名は私どもが案内した方です。 平成27年4月15日
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