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術後の入院について 2012年11月12日

「手術後は何日ぐらい入院するのですか?」
良く尋ねられる質問です。「患者さんの快復状態によります」と返事したいところですが現実はそうではありません。

答えは「医師の考え方次第」となります。
最も移植治療の盛んな米国では腎移植5日、肝移植は10日で退院するのが通常です。一方、日本では入院期間は1ヵ月~3ヵ月にも及びます。しかし米国人と比較して日本人の体が弱く快復が遅いという訳ではありません。
これは医療に対する考え方の相違によります。体調が安定した時点で退院するという基本方針は日米中ともに同じですが、何を基準にするかで大きく変わるのです。腎移植を例に国際比較してみると以下のようになります。

米国
術後1~2日でICUから一般病棟に移ります。この時点では心電図モニターは装着されています。尿管カテーテルは術後2~3日・ドレーン管は3~4日後に抜去します。最後は点滴や薬剤投与する静脈カテーテルを抜去して退院となります。
移植手術に対する直接的な処置はこれで終了となります。米国の医療機関はこの時点が安定と考えます。その後は通院しながら免疫抑制剤の調整や感染症に対する各種検査が行われます。
※参考“盲腸の手術は米国1日に対して日本は7日の入院となります。

日本
術後のプロトコールは欧米とさほど変わりありません。腎移植に対する直接的な処置は1週間前後で終了します。その後、採血や各種の検査が行われますがこれは通院でも可能な処置ですが容体の変化や万が一を考えて引き続きの入院を勧められます。
※日本でも欧米式を取り入れている聖路加国際病院などでは1週間の退院が通常とされています。http://www.luke.or.jp/guide/kidney_transplantation/index.html

中国
日米の中間に位置している感じです。腎移植で2週間・肝移植は3週間を基準に退院されます。
※欧米留学を経験された医師は短期間にて、日本留学組は長期間の入院を求められる傾向はあります。

安心安全を追求したら何ヶ月入院すれば良いのか線引きは大変難しい判断となります。医学的には免疫抑制剤の投与量が減少する術後14日前後とさらに調整(削減)する術後60~80日が退院の節目と言えます。現実問題としてレシピエントの体調より保険制度の影響を強く受けているのが実情です。
米国では術後5日までが保険の対象となり、その後は実費負担しなければなりません。日本の保険制度では入院日数が30日を超えると保険点数が削減されます。90日を超えるとさらに大幅に減らされるので、病院経営の観点から申しますと30日又は90日が節目となります。

現場からの視点
術後1週間を過ぎた頃からは特に治療はなくなります。朝食前に採血をして免疫抑制剤の血中濃度を調べ、投与量を調整するのが主な処置となります。
それ以外に超音波(エコー)で腎臓の状態や内部の血流を数日置きに検査します。もし異常を認めた場合はCTやMRIの画像診断となります。また状態により移植した腎臓の組織を一部取り出す「生検」も場合によりございます。
日常観察として摂取する水分量と排出する尿のバランスを記録して移植腎が正常に活動しているかを把握することが重要となります。上記の診療は通院でも不都合はございません。

実際の事例では
海外の病院を退院すると当日または翌日には帰国します。
帰国した翌日に病院(腎移植外来)へ行くことになりますが即日入院するように言われる方は全体の6割程度です。残りの方は通院による継続治療となります。

医師による見解の相違
帰国患者に対しては問診後に採血をします。その検査結果次第で入院手続きの判断をします。但し、検査をする前から「術後1ヵ月は安静にしなければなりません」と即日入院を宣告する医師も相当数います。冒頭に申し上げた「医師の考え次第」とはこのことです。

患者さんの心情は
術後の状態が良いので入院しなくて済んだと喜ばれる人と「とにかく心配だから入院させて欲しい」と頼み込まれる人がいます。
入院する必要があるのに入院を拒む医師はいません。また容体が不安定な状態で現地の病院を退院することはできません。その様な事から大きな心配をする必要はないのですが、「海外で移植してきたから入院させて貰えないのでは」と誤解される方も中にはいらっしゃいます。また、各病院のホームページに「術後1ヵ月の入院が必要」の記載が多く見受けるので患者さんの不安はいっそう高まります。
既に海外で移植をされた患者の方からの紹介で渡航される人は半数近くなりますが、経験者の体験談やアドバイスを聞いて「○○さんは帰国後1ヶ月入院したのに私はどうして入院させて貰えないのか」と私どもNPOに言い寄って来られる方がいます。
その一方、帰国後は通院だけで済まされた方もいます。入院しなくても済んだ話を聞いて渡航された方で、帰国後医師から「1ヵ月の入院が必要です」言われ、「どこか悪いのでは・・」または「手術に問題があったのでは・・」と問い合わせが来ることもございます。

参考までに
私どもが活動を始めて以来7名の医療関係者(現職医師3名含む)を海外へ案内しておりますが口々に「入院は2週間あれば十分」と仰っています。
中には術後4日目に帰国された方もいますがこれは稀なケースです。現地の医師は引き留めたのですが「アフターケアーは日本の方が上手」と聞き入れず早々に日本へ戻られました。

帰国後の注意点
移植後の拒絶反応は個人差がありますが大抵の人に見受けられます。また術後、数ヶ月が過ぎて感染症を患う方もいます。また帰国後に急な発熱があったり、尿量が減少し一時的に透析をしたりしなければならないケースも稀にございます。
これらは入院の有無と直接関係はございません。しかし患者の方は「退院が早すぎたのでは」もしくは「手術に問題があったのでは」と極度に心配されたりしますが、術後一定の頻度で表れる症状です。患者側の希望により入院日数を自由に選択できれば良いのですが、そう易々と了承しては貰えず医師の裁量に任せることになります。

結びとして
術後の入院は何日間すれば良いのか?
体調次第であることは大前提に変わりはありませんが多くの場合、医師の個人的見解または医療機関の方針(保険制度)で決められることが多々あることをご理解ください。

※帰国後の継続治療は高額療養費控除等の助成制度をご利用になれば医療費の支出は収入に応じて月間1~2万円程度で済みます。



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