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肝臓移植(待機時間と生存率) 2014年02月17日

肝臓移植(待機時間と生存率)
一般的に待機時間が長い人ほど優先されると思われがちですが肝臓移植はそうではなく緊急性の高い患者が優先されます。
今日登録して明日手術もあり得るのが肝臓移植なのです。(実際に行われています)
急性型劇症肝炎の場合、発症から数日から数週間以内に肝機能は廃絶しスコアリング(Child-Pugh)はC分類に達します。
直近5年の統計では劇症肝炎を発症した患者の約33%の人が肝移植を受けられています。
脳死ドナーが現在の3倍に増えれば劇症肝炎のほぼ全員が移植治療を受けられることになります。
それに対して進行の遅いC型やB型肝炎の患者は長期間待機されても移植の機会は劇症肝炎に比べて格段に少ない現実があります。(移植学会でも課題となっています)

肝移植の生存率(生体と死体の対比)
日本以外の国では95%以上は脳死ドナーによる全肝移植が行われています。
その理由は生体間による部分肝移植よりも全肝移植の方がより安全性が高く、術後の快復も良好だからです。現に生体間の移植の場合、ドナーの肝臓(クラフト)が小さい場合は不適応となります。
第二の理由として生体間の移植に付いてWHOは「健康な体にメスを入れる行為は医療本来の姿ではない」と勧告しているからです。
※脳死ドナーが不足している我が国の現況では第一選択として医師は親族間の移植を勧めます。

全肝移植の方が生体肝移植より優れている事は外科医であれば誰でもが認めるところですが、ここで一つの疑問が浮上します。
医療機関の発表やネットの検索などを見ると「死体と生体の生存率は同等である」との記述をたびたび見受けます。
NPOの活動を始めた当初、この点に付いて些かの疑問を抱きました。そう申すのは患者の方から主治医が「生体移植はリスクが高いので海外を検討されてはどうか・・」と言われて私どもに連絡してくる人が少なくないからです。
その後、実際に国内で肝移植を行っている外科医及びチームスタッフの話しから実情が分かり納得した次第です。

それは統計に表れないトリックのような事実関係があるからです。
以前から何度か記述していますが肝移植は手術前に概ねの成功率(生存率)が予見できます。Child-Pugh分類が同じCであっても12点と13点の間には生存率に明確な差異が生じます。
レシピエントの状態が重篤であれば、あるほど術後の生存率は低下する傾向があるのです。
日本移植ネットワークの選択基準からすると重篤なレシピエントへ臓器は提供されるので生存率はどうしても低下し、生体肝移植と同等の成績となってしまうのです。肝移植で最も重要となる手術前のスコアリングがまったく考慮されていないからです。

もう一つ統計に表れない事実として、術後のクオリティーがあります。
Child-PughがB分類の患者が全肝移植した場合、一部の人を除けば術後の快復は極めて早く手術後1週間を過ぎると自由に歩き回り食事も普通食となります。米国では肝移植後10日で退院するのが通常とされるのは全肝移植が主流だからです。米国人に特別体力がある訳ではありません。

それに対して生体間の移植が中心である日本では術後平均して3ヵ月は入院します。それは移植した肝臓が長い時間を掛けて徐々に大きくなり正常に活動し始めるのを待つ必要があるからです。
その間、腹水を何度も抜いたり、場合によっては血漿交換などの処置を繰り返さなければなりません。術後1週間で自由に歩けるのと、四股をベッドに縛り付けられ酸素吸入(気管切開)をしながら快復を待つのとでは患者さんの受けるストレスは天と地ほどの差があります。これら術後のクオリティーやストレスは生存率の統計に表れない側面です。

その他、外科医の立場から申せば肝臓全体を移植するのと部分移植では難易度に雲泥の差があります。通常、全肝移植は6~8時間で手術を終えますが部分移植は12時間どころか20時間を超える事も珍しくありません。それだけ門脈や胆管の接続を数多くしなければなりません。毛細管の接続が上手くいかなかったり狭窄した場合はその部分の肝細胞が壊死したり血液・胆汁漏れが生じます。そのリスクは全肝移植と比べ非常に高く、患者の体内に挿入した各種ドレーン管を長期間留置することになります。その様なことから外科医の中には「全肝移植は簡単です」と言い切る人もいます。

以上のことから日本以外の諸外国では生体による部分肝移植は緊急的避難処置としての位置付けとなっているのです。現に生体間の部分肝移植は5%以下の少数の事例に限られます。

欧米では一般的に肝移植が成功したと言えるのは術後5年、10年以上、健康で過ごせたことを指しますが日本では術後入退院を繰り返しても1年生存していれば成功と言われます。
この点に於いても全肝移植が優れていることは周知の事実となっていますが国内では親族間の生体移植を推進する方針から都合の悪い事実関係には触れたがらない、または説明しない医師が散見されることはまことに残念に思います。
ネットの検索により海外の医療情報が以前に増して入手可能な時代となりました。所属する病院や学会の方針に縛られることなく、患者側の立場で治療方針を検討し、しっかりと事実関係を説明すべきと思います。また社会情勢も患者主体の医療をより重視する時代を迎えよとしています。



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